会社を設立するにあたって資本金を用意する必要があり、資本金を用意する方法には金銭出資と現物出資があります。
金銭出資は現金を出資する方法ですが、現物出資はどのような方法であるのか詳しく理解されていません。
言葉のとおり現物出資は「モノ」を出資して会社を設立する方法です。
金銭出資ほど理解されていない方法であるため、今回は現物出資に注目してご説明します。
会社設立における現物出資とは
最初に会社設立における現物出資とはどのような制度であるのかをご説明します。
現物出資の概要
現物出資とは会社を設立するにあたって、金銭ではなく何かしら資産となる「モノ」を出資することを指します。
一般的に会社を設立する際は資本金に該当する現金を出資しますが、現物出資であれば現金以外でも出資可能です。
しかも、会社設立では現物出資だけを利用することも認められていて、現金なしでの会社設立もできます。
実際にその状態で会社経営ができるかどうかは別ですが、ルールとしては現物出資だけでも設立可能なのです。
なお、現物出資を利用するためには一定のルールがあります。
後ほどルールについて解説するため、詳細はそちらをご確認ください。
現物出資で認められる資産の例
現物出資ではどのような資産でも認められるわけではありません。
客観的に価格の算定が可能であり、会社が所有者になれる資産に限られます。
例えば以下のような資産を現物出資できます。
- 自動車やバイク
- 事務所の家具
- 会社のWebサイト
- 有価証券や債券
- 知的財産権
- 会員権
- 不動産
購入時にローンなどを組んでいるものならば、基本的に支払いが終わっていないと現物出資できません。
これはモノの所有者が本人ではなくローン会社であることに由来します。
一部このような制限がありますが、ローンなどを組まず支払いが完了しているものは基本的に現物出資可能です。
なお、現物出資の対象は「モノ」であるため、資産として管理できないようなものは出資できません。例えば、労働力は資産とはいえないため「3ヶ月分の労働」などは出資できないのです。
客観的に価値が評価できる資産が現物出資に認められると理解しておきましょう。
現物出資と金銭出資の違い
現物出資と金銭出資の大きな違いは「出資された方がすぐに把握できるかどうか」です。
現物出資は出資された「モノ」の価値を評価する必要があり、また客観的にいくら出資されたかの把握が難しくなってしまいます。
それに対して、金銭出資であればいくら出資されたのかはすぐに把握可能です。
出資された金額を把握すれば良いだけであり、現物出資のように評価を受ける必要がありません。
「金額の把握のしやすさ」との観点で現物出資と金銭出資には違いがあります。
他にも、現物出資は現金ではないため、現金が必要になると資産の売却が必要です。
資産の内容によっては売却するまでに時間を要してしまい、資本金があっても現金はない状態に陥ってしまいます。
金銭出資していれば口座に現金が存在していることになるため、現金化の手間は生じず、ここも現物出資と金銭出資の大きな違いです。
現物出資が認められる要件
会社の設立にあたって現物出資をするためには要件を満たさなければなりません。
複数の要件が存在しているため、それぞれについてご説明します。
現物出資は発起人のみ
現物出資ができるのは会社設立時の発起人のみです。
資本金の出資は発起人以外にも認められていますが、現物出資は発起人にしか認められていません。
現物出資も定款への記載が必要
資本金の金額は定款に記載されていて、この金額のとおりに払込みをしています。
現物出資についても同様に定款への記載が必要となっていて、記載されているとおりに資産を提供しなければなりません。
なお、現物出資は資本金として記載するのではなく、相対的記載事項として記載します。
定款に記載するにあたってはいくつかルールがあり、以下の事項を記しておかなければなりません。
- 財産を出資する者の氏名または名称
- 出資する財産の内容
- 財産の評価額
- 現物出資に対して割り当てる設立時株式数
これらの記載がなければ現物出資は不可能です。
定款の記載を忘れてしまうと現物出資ができなくなるため、必ず記載が求められることを頭に留めておきましょう。
資産の価格評価を済ませる
現物出資にあたっては資産の価値を許可申請するのではなく評価してもらわなければなりません。
資産の価値を評価する「調査役」は裁判所が選任した人が担当します。
また、裁判所が選任するものの費用は自己負担となり、評価には一定の時間を要してしまいます。
資産の価格評価には時間とお金を要してしまうため、この点は現物出資にあたって注意しておくべきです。
ただ、現金が不足しているために現物出資を選択している人が、このような負担を被っていては現物出資の意味が薄れてしまいます。
そのため、資産の評価にあたって調査役を利用しなくても良い制度も存在しています。
以下の条件を満たす場合は調査役なしに価格評価が可能です。
- 現物出資の合計額が500万円以下
- 現物出資を上場株式などの市場価値が明確な有価証券でおこない、定款に記録された価値が市場価格以下
- 現物出資した資産の価格は適切であることが弁護士・公認会計士・税理士などによって証明されている
オフィスで使用するパソコンや家具など少額資産の提供であれば、調査役を利用しなくてよい制度に変更されています。
念のために注意しておいてもらいたいのは、個別の評価額が500万円以下ではなく、合計額が500万円以下であることです。
少額固定資産の積み重ねでも合計の評価額が500万円を超えると調査役が必要となるため、誤った理解をしてはなりません。
定款との乖離が生じた際の責任
資産価値を評価してその金額は定款に記載されています。
ただ、何かしらの理由で定款に記載されている金額と資産の評価額に乖離が生じてしまうことがあります。
この場合、乖離して不足している金額は発起人が責任を持って不足額を負担しなければなりません。
定款は会社において非常に重要な文章であるため、事実と異なる内容が含まれていてはなりません。
すでに作成した定款の内容と現物出資した内容が異なるならば、資本金を現金で用意するなどして乖離が生じないように補填します。
会社設立にあたって現物出資を利用する際は、乖離が生じた際の責任を発起人で負わなければなりません。
発起人が複数いる場合は連帯責任となるため、発起人全員で認識を持つようにしましょう。
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現物出資を選択する3つのメリット
現物出資を選択して会社を設立すると以下のメリットを受けられます。
- 現金以外で資本金を用意できる
- 会社の資産となり節税が期待できる
- 金銭出資ができない人でも発起人になれる
現金以外で資本金を用意できる
現物出資では現金以外で資本金の用意ができます。
手持ちの現金が目標とする資本金に達していなくても、現金以外で補える点がメリットです。
会社設立には何かとお金が必要となるため、まとまったお金を貯めておく必要があります。
資本金以外にも登録免許税など必須の支払いがあるため、そのようなお金を確保する必要があるのです。
ただ、そのようなお金の確保に時間をかけすぎると、会社の設立が遅くなりビジネスチャンスを逃しかねません。
この時に現物出資を利用すると、見た目以上の資本金額を増加させられます。
実際に会社の現金が増えるわけではありませんが、資本金額が増えることで、見かけ上の信用力などを高めることが可能です。
会社の資産となり節税が期待できる
現物出資したものは会社の資産となり、減価償却が可能です。
減価償却の対象となる資産が増えれば毎年の経費が増えるため、課税対象が少なくなり節税のメリットへとつながります。
具体的にどの程度の節税効果が期待できるのかは、現物出資した内容によって異なります。
固定資産には耐用年数が定められているため、これによって効果が左右されるのです。
一概にどの程度の効果があるとは言い切れないため、状況に応じてその都度算出するようにしましょう。
なお、現物出資による節税効果は素人には算出しにくいかもしれません。
そのため、どの程度の節税効果があるのか気になるならば、会社設立の段階で専門家に確認しておきましょう。
正しい知識を持っておかなければ、思うような効果が得られないかもしれません。
金銭出資ができない人でも発起人になれる
手元に現金がない人でも現物出資ならば発起人になれることはメリットです。
一般的な金銭出資をするためには手元に現金が必要ですが、現物出資では現金は必要ありません。
現物出資はあまり知られていない印象があり「現金がないから」との理由で起業や発起人になることを諦める人が見受けられます。
しかし、現物出資ならば諦める必要はなく、発起人になるチャンスがあるのです。
現物出資を選択する3つのデメリット
現物出資にはデメリットもあり、たとえば以下のようなデメリットが生じます。
- 資本金額に対して現金が少なくなる
- 資産の評価が必要となる
- 会社設立で必要な書類が増える
資本金額に対して現金が少なくなる
現物出資を利用すれば資本金の底上げが可能です。
現金が少なくとも現物出資をすれば、登記上の資本金額を簡単に増やせます。
ただ、あくまでも登記上の資本金額が増えるだけで、現金が増えるわけではありません。
資本金額と現金の額が異なっている状況です。
資本金額と同じだけの支払いができるわけではありません。
例えば資本金が300万円で、そのうち100万円が現物出資であったとします。
この場合、現金の資本金は200万円しかありません。
この状況で250万円の支払いはすぐにできないのです。
現物出資は資本金が増えますが、手元にお金が増える状況ではない点は改めて認識しておきましょう。
資産の評価が必要となる
基本的なルールでは現物出資するにあたって、資産の評価をしなければなりません。
自己申告で資産価値を決定するのではなく、客観的な評価が求められます。
専用の手続きが必要となるため、手間がかかってしまう点でデメリットです。
ただ、上記でご説明したとおり、特定の条件下では客観的な評価を受ける必要はありません。
提供する資産によっては、このデメリットを無視できます。
とはいえ、必ずしも評価を受けなくて良い「モノ」を出資できるとは限らないため、こちらのデメリットについても認識はしておきましょう。
会社設立で必要な書類が増える
会社の設立にあたって現物出資を利用する際は、専用の書類作成が必要です。
例えば以下の書類を用意して会社設立の際に提出しなければなりません。
- 調査報告書:資産の価値が適正であるか証明した書類
- 財産引継書:資産の保有者が発起人から設立する会社に引き渡されることを証明する書類
会社設立にあたっては多くの書類を作成する必要があり、それらに加えて新しい書類を作成することはデメリットです。
必要書類の大半は専門的な内容で作成に時間を要するため、現物出資の書類も作成するとさらに負担が増えてしまいます。
また、現物出資では資産価値の評価を受けなければなりません。
こちらに関する書類は自分だけで作成できるものではなく、評価者との協力が必要です。
単純に書類の種類が増えるだけではなく、連携する人が増え手間も増えてしまうのがデメリットです。
現物出資を考えている場合の2つのポイント
現物出資を考えているならば抑えてもらいたいポイントがあるため、それらのポイントについてもご説明します。
資産の名義変更に手間がかかる
現物出資では会社に資産を提供するため、この資産の名義を変更しなければなりません。
簡単に名義が変更できるものも存在しますが、逆に難しく手間がかかるものも存在するため注意しておきましょう。
例えば、少額の家具やコンピューターなどは名義変更の手間があまりかからないため、現物出資のハードルが低いでしょう。
資本金の底上げをするとの観点であれば、効率よい手法でありメリットを感じられるはずです。
それに対して、自動車やバイクは名義の変更に手間がかかります。
短時間でスムーズに変更できるものではなく、現物出資のハードルが高まってしまいます。
出資することで資本金を大きく高められますが、高額な資産には手間がかかるものがあるのです。
なお、資産の名義変更には専門的な知識が問われるものがあり、素人には対応できない可能性があります。
そのため、会社設立の際に専門家に相談しておき、名義変更の手続きについてもサポートしてもらえるようにしておくのがおすすめです。
無駄な税金がかかる可能性がある
現物出資した資産の内容によっては出資者の納税額が増えてしまう可能性があります。
例えば、譲渡所得税や消費税が発生する可能性があるため、以下のとおり注意が必要です。
譲渡所得税
譲渡所得税は資産を譲渡した際に発生した所得に対して課される税金です。
現物出資は法人に対する譲渡として処理されるため、所得税の課税対象となってしまいます。
なお、課税対象金額は資産の価値ではなく、現物出資によって提供された株式の時価です。
すべての資産が譲渡所得税の対象となるのではなく、国税庁のWebサイトを参照すると以下の資産が該当します。
- 土地
- 借地権
- 建物
- 株式等
- 金地金
- 宝石
- 書画
- 骨とう
- 船舶
- 機械器具
- 漁業権
- 取引慣行のある借家権
- 配偶者居住権
- ゴルフ会員権
- 特許権
- 著作権
- 鉱業権
- 著作権
- 土石(砂)
上記の資産を現物出資する場合には譲渡所得税がかかる可能性があるため、出資する側は意識しておくべきです。
消費税
出資する資産に消費税の課税対象が含まれていると、消費税が課されてしまいます。
個人が発起人になる場合、消費税を納めるイメージができないかもしれませんが、実は消費税がかかる可能性があるのです。
ただ、現物出資の金額に左右されるものの、基本的に個人で消費税の課税事業者になっていなければ消費税を意識する必要はありません。
逆に、売上が1,000万円以上ですでに消費税の課税事業者であれば、消費税を意識する必要があります。状況に応じて変化するため、税理士などの専門家に相談してみることをおすすめします。
まとめ
会社設立にあたって資産を出資する「現物出資」についてご説明しました。
出資といえば一般的に金銭出資ですが、会社設立時は金銭ではなく資産の提供が可能です。
いくつかの条件を満たす必要はあるものの、金銭的な余裕がなくとも会社設立ができたり発起人になれたりします。
現物出資にはメリットがありますが、手間がかかるなどのデメリットもあります。
メリットだけを意識する人が多いものの、デメリットについても目を向けて理解しておくことが重要です。
特に現物出資は現金が増えるわけではないため、そこは意識しておきましょう。
なお、これから会社設立するにあたって現物出資を考えているならば、まずは24時間受付で手数料無料の経営サポートプラスアルファにご相談ください。
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