人材派遣業は会社設立してから開業すべき理由は何?資金調達の重要性などを解説

20年前、30年前と比べて、ありとあらゆるところで派遣社員が働くようになりました。

今では自治体や役所の窓口対応、図書館の司書まで公務員ではなく派遣社員というところもあります。

派遣社員の社会への浸透については批判もあり、功罪相半ばということは否定できないのかもしれませんが、これだけ浸透しているということは事業として成立し、儲かっていることの裏返しでもあります。

人材派遣業を事業として立ち上げ開業したい場合、どのような条件があるのか、また会社を設立した方がよいのか本稿では解説いたします。

人材、いや「人財」を派遣する大切な仕事ですので、しっかり開業について考えてみてください。

人材派遣業は通常の開業よりも要件が高い

人材派遣を開業するには、通常の業種のように、開業届や会社設立登記をすれば自動的に開業できるものではなく、一定の要件を満たす必要があります。

まず、下記の条件を満たさないと開業自体が許可されないので注意してください。

人財派遣業は「許可制」

以前の派遣業は「特定労働者派遣事業」と「一般労働者派遣事業」に分かれており、前者の「特定労働者派遣事業」は「届出制」で基準が緩かったのですが、2015年に両者は一本化されすべての人材派遣業は「許可制」になりました。

申し込みだけで済む届出ではなく、監督官庁が許可する必要が出てきたので、人材派遣業開業までのハードルが上がりました。それでは、その許可要件、ハードルとはどのようなものなのでしょうか?

基準資産額2000万円以上

人材派遣業を開業する際には、原則として2000万円以上の資産が必要になります。

派遣会社が負債で簡単に倒産してしまっては、派遣社員の身分、生活が危うくなるので、財務状態を重視します。

基準資産額2000万円以上とは

  • 「資産-負債」≧2000万円
  • 資産のうち、1500万円以上が「現金」「預金」であること
  • 「資産-負債」が負債総額の7分の1以上

手元にお金がないと人材派遣業を開業できません。

金融機関からの借入は「負債」ですので、借入で2000万円調達しても、これは基準資産額2000万円を満たすことにはなりません。

なお、原則には「例外」があり、事業規模が小さい「小規模派遣元事業主」の場合、配慮措置として基準資産額は1000万円以上へと緩和されています。

それでも現金は800万円以上必要になります。

こちらも当然、借入で調達しても負債になります。

事務所要件

人材派遣会社は「自宅開業」できません。

当然、みなさんがイメージする派遣会社のように、広いオフィスや相談スペースが必要になります。

1.風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号)で規制する風俗営業や性風俗特殊営業等が密集するなど事業の運営に好ましくない位置にないこと。
2.事業に使用し得る面積がおおむね20㎡以上あること。
3. キャリアコンサルティング向けの面談スペースを設ける 
(1.2は厚生労働省の規定)

この条件を満たす事務所を用意しないと開業できません。

繁華街などは1に引っかかります。

派遣元責任者の資格

派遣元責任者という人を置かなければなりません。

開業するみなさんが派遣元責任者になることもできます。

派遣元責任者になるには、派遣元責任者講習の受講が必要になります。

必ず受講して、派遣元責任者になっておきましょう。
一般社団法人 日本人材派遣協会派遣元責任者講習

派遣労働者の教育・訓練に関する制度の整備

2015年の派遣法改正によって、人材派遣事業者は、派遣社員に対して教育訓練の機会提供が必要になりました。

座学の研修、オンライン研修、通信教育など多様な形でいいのですが、派遣社員を登録させて放置ということはできません。

必然的に、キャリアコンサルタントの資格がある人などをスタッフとして雇い、派遣労働者本人の意向を聞きながら、多様な研修メニューを実施する必要があります。

欠格事由がないこと(個人情報管理の徹底など)

人材派遣は登録者のプライベートな情報を扱うため、個人情報保護などの体制が徹底していることが必要です。

個人の思想・信条や宗教、門地などを聞くことは極めて問題がありやってはなりません。

また、派遣社員がほかの派遣社員の情報にアクセスできるようなクラウドシステムなどは不適切です。

人事スタッフなど限られた社員のみプライベート情報にアクセスできる体制が必要です。

人材派遣できない業種もチェック

20年前、30年前に比べて派遣できる業種は大きく広がりました。

当初は本当に専門的な特定の仕事の人の高いスキルを時間で売る、というコンセプトでしたが、現在は、多様な働き方の一環として、バイトよりも高い時給で働く人のニーズに応えるという側面も否定できません。

しかし、現在でも人材派遣できない仕事があります。

代表的なものとして以下が挙げられます。

  • 病院等における医療関連
  • 港湾運送関連
  • 建設関連
  • 警備関連
  • その他、資格を有していないとできない業務

病院については、看護師などの派遣は大丈夫です。

当然、専門資格、サムライ資格の代表である、医師、弁護士、公認会計士、税理士などの派遣はできません。

人材派遣業は個人事業主としても開業できるが会社設立した方がよい

人材派遣業を開業する場合、上記の要件に「法人」というものは入っていません。

つまり、人材派遣業を開業する際、個人事業主でも可能です。

一般的に会社設立(法人)と個人事業主のメリット、デメリットは以下になります。

会社設立

個人事業主

メリット

社会的信用がある

簡単に開業できる

経費の範囲が広い

定款などの作成義務がない

責任の範囲が有限

自由な働き方ができる

赤字繰り越しが10年である

廃業手続きもすぐにできる

利益次第で個人事業主よりも税率が下がる可能性

厚生年金に加入できないため、国民健康保険と国民年金だけでは老後が不安

最高税率が23.2%と所得税の約半分

 

デメリット

設立までの手間がかかる

社会的信用がない

設立後の帳票作成や税務申告が大変

最大税率45%と法人税よりはるかに高い

赤字でも法人住民税(均等割)がかかる

無限責任で経営失敗のマイナスはすべて自分が負う

社会保険へ加入しなければならない

赤字繰り越しが3年までしかできない

会社の廃業手続きが煩雑

経費で落とせる範囲が狭い

どちらがよいかについては、業種や売上規模によって大きな差があります。

ここで注意していただきたいのが基準資産額要件です。

人材派遣会社の場合、2000万円以上の資産が必要になります(かつ、現金、預金で1500万円以上)。

上述のように、この資産は借入によって増やすことはできません。

逆に負債が増えてしまい、逆に開業が厳しくなります。

「小規模派遣元事業主」の場合、基準資産額は1000万円以上へと緩和されています。

現金は800万円以上あればよいのですが、最低800万円、ないし1500万円を自分が働いて貯めた預金で賄うのはかなり大変です(失敗すればこのお金は消えます)。

融資による開業資金調達が無意味で、自己資金100%が厳しいとなると、法人、特に株式会社を設立し、株式発行をして出資者を募る、つまり資本金として1500万円(ないし800万円)超を集めて、開業するのがもっとも確実な方法になります。

1500万円(or800万円)の出資を募るのはとても大変ですが、それが難しい、あるいはできないならば、そもそも人材派遣業を開業してもうまくいかないということです。

常に人件費として一定の「遊び」を確保できる経営者でないと、人材派遣業はうまくいきません。

その他、会社設立と個人事業主では税金面の違いがあります。

事業主体会社設立個人事業主
所得税代表個人の役員報酬を「給与所得」として算出し、その5%~45%事業の売上から「事業所得」を算出してその5%~45%
個人住民税代表個人の役員報酬を「給与所得」として算出し、その約10%事業の売上から「事業所得」を算出してその約10%
消費税課税売上1000万円以上の場合支払う(2年間は支払い義務がない特例もあり)課税売上1000万円以上の場合支払う
法人税かかる(15%~23.2%)なし
法人住民税かかるなし
法人事業税かかるなし
個人事業税なしかかる

会社が納める法人税と、個人事業主が納める所得税は、年間売上1000万円前後で、「法人税>所得税」から「法人税<所得税」となります。

しかし、そもそも人材派遣業を開業すれば、年間売上1000万円未満というケースは考えにくく(派遣社員の給料(派遣会社の売上から支給)だけでも相当になるはず)、個人事業主として人材派遣業を開業するメリットはほとんどないはずです。

つまり、人材派遣業を開業する場合、「法人化して基準資産額要件を満たす現金の出資を募る」というのが多くの場合正解になります。

そのあたりは、開業や人材派遣業に詳しい専門家にも確認してください。

創業融資を調達しての開業は、人材派遣業に限っては無意味(というか逆効果)であり、出資者をどう募るかは、専門家のアドバイスを聞いてください。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

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人材派遣業と人材紹介業の違い

最後に人材派遣業と人材紹介業について違いを説明します。

人材紹介業はよく言われる「転職エージェント」のことです。

正社員を採用したい企業からの求人を、求職者にあっせんし、企業に紹介します。

正社員としての雇用契約は、求人企業と求職者であり、人材紹介業は、手数料、あっせん料としてマージンを受け取る仕組みです。

一方、人材派遣業は、人材派遣業と派遣社員が雇用契約を結び、その給料を派遣先が支払う仕組みです。

派遣社員は人材派遣会社の社員として、派遣先企業に常駐し、そこの正社員やアルバイトと同じような仕事をしますが、あくまで派遣会社の社員であります。

同じ職場で仕事をしていても、正社員やバイトにはボーナスがあるのに派遣社員にはないのは、そもそもお金をもらっている先が違うからなのです。

人材派遣業は、継続的に派遣社員を管理教育することが必要で、紹介し、採用されたら手数料をもらって終わり、の人材紹介業とは手間もコストも全く違います。

それだけ売上もありますが、かなりリスクをともなう人材ビジネスであることに注意してください。

人材派遣業の開業を希望される方は「経営サポートプラスアルファ」に相談を!

人材派遣業開業は、他の業種のように、資格を取って、開業資金は創業融資で調達して・・という定石が通用しません。

融資によらず、基準資産額要件を満たす資産、現金を調達する必要があるため、自己資金のない人の開業には大変な困難がともないます。

それでも開業したい、人材派遣業をやりたい、という方はぜひ専門家に相談してください。

株式発行による出資、あるいはそれ以外(で融資ではない)方法など、アドバイスを受けないと進みません。

「経営サポートプラスアルファ」には、融資によらない資金調達や、人材派遣業の開業ノウハウを持つプロフェッショナルが揃っていて、適切にアドバイスいたします。

「経営サポートプラスアルファ」は土日祝日夜間も対応します。

また、遠隔地にお住まいの方は、LINEやZOOM、チャットワークなどを使っての相談が可能です。

人材派遣業開業には、金銭的なリスクも大きく、事前に綿密な準備が不可欠です。

ぜひ「経営サポートプラスアルファ」に相談をしてください。

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