【税理士が解説】個人事業主と法人の違いとは?法人化のタイミングも紹介

事業を始める際、「個人事業主として運営するか、それとも法人化するか」という選択は、多くの起業家が直面する最初の大きな決断です。個人事業主として始める方もいれば、最初から法人化を目指す方もいます。それぞれにはメリットとデメリットがあり、ビジネスの内容や規模、将来的な展望によって適切な選択肢は異なります。

本記事では、個人事業主と法人の違いを税制や責任の観点から詳しく比較し、どちらを選ぶべきかを考える上での重要なポイントを解説します。

個人事業主は、個人として事業を運営する形態を指します。法人を設立する手続きが不要で、開業手続きが非常に簡単です。開業届を税務署に提出するだけで事業を開始でき、すぐにビジネス活動を始めることが可能です。

個人事業主は、個人の名前で取引を行い、所得税の申告も個人として行います。税務上は、事業から得た利益に対して個人所得税が課されます。事業が成長するにつれて、法人化を検討するタイミングが訪れることも多く、特に収入が増加した場合や取引先から法人化を求められるケースでは、法人化が有利になることがあります。

法人とは、法律上「個人」とは別に存在する独立した「法的な人格」を持つ組織のことを指します。法人は、個人事業主と違って、法人格を持つことで、法律上の権利義務を個人とは切り離して持つことができ、会社としての責任を法人そのものが負います。法人化する際には、株式会社や合同会社などの形態を選んで設立することができます。

法人化すると、税務上や法的な扱いが個人事業主とは異なり、法人税や役員報酬に関する規定が適用されます。また、法人としての社会保険や労働保険の加入が必要になるため、これまで個人事業主として行っていた事務処理も複雑化します。

1. 税制上の違い

個人事業主は、事業から得た収益に対して個人所得税を支払います。所得税は累進課税であり、所得が高くなるほど税率が上昇します。最高税率は45%にも達するため、高収益の事業では税負担が非常に大きくなります。

一方、法人の場合、法人税が課されます。法人税率は**23.2%**であり、個人事業主に比べて税率が一律で低く抑えられるため、一定以上の収入が見込まれる事業では、法人化することで節税効果が期待できます。

また、法人化すると、役員報酬を設定し、給与所得控除を利用することができ、さらに節税の幅が広がります。このように、事業規模が大きくなり、利益が増加するにつれて、法人化による税制上のメリットは大きくなります。

2. 責任範囲の違い

個人事業主の場合、事業における全ての責任を事業主本人が負います。万が一事業が失敗し、負債を抱えた場合でも、その返済義務は個人の財産にまで及びます。つまり、事業の負債が個人の生活にも影響を与えるリスクが高いです。

これに対し、法人は、法人と個人が法的に分離されているため、法人が負った負債や責任は法人そのものに帰属します。つまり、法人化することで、事業におけるリスクを法人に限定することができ、経営者個人の財産が保護されるというメリットがあります。このため、事業のリスクが大きくなるほど、法人化によるリスク分散の効果は大きくなります。

3. 信用力と取引先からの評価

ビジネスを展開する上で、信用力は非常に重要です。特に大手企業や金融機関との取引においては、法人格を持つかどうかが大きな判断材料となることがあります。

個人事業主の場合、法人と比べて信用力が低く見られがちです。特に、融資を受ける際や新規の取引先を開拓する際には、法人化している企業の方が信用力が高いため、取引や融資がスムーズに進むことが多いです。

一方、法人の場合は、法人格を持つことで、ビジネスの実態が明確にされ、取引先や金融機関からの信頼が得やすくなります。特に、株主総会や取締役会がある株式会社は、意思決定のプロセスが透明化されるため、さらに信用度が高まります。

4. 社会保険と労働保険

個人事業主の場合、社会保険は国民健康保険と国民年金に加入することになります。しかし、法人化すると、厚生年金健康保険に加入する必要があります。法人として従業員を雇用する場合、従業員の社会保険も法人が負担することになります。

社会保険の制度は、法人化することで福利厚生が充実するため、特に従業員を多く雇う予定がある場合には、法人化することで従業員の福利厚生を充実させ、優秀な人材を確保しやすくなるというメリットがあります。

ただし、役員報酬や従業員の給与額に応じて社会保険料が増加するため、短期的には負担が増えることがあります。このため、社会保険料の負担を最適化するためには、役員報酬を適切に設定することが重要です。

5. 設立手続きと運営コスト

個人事業主の開業手続きは非常に簡単で、開業届を税務署に提出するだけで事業を開始できます。また、設立費用もほとんどかからず、すぐにビジネスを始めることができます。運営コストも低く抑えられ、税務申告も青色申告や白色申告などの簡易な申告制度が利用可能です。

一方、法人化する場合は、設立費用運営コストが発生します。法人設立には登録免許税(株式会社の場合は最低15万円、合同会社の場合は6万円)や定款の作成、公証人役場での定款認証費用がかかります。また、法人としての運営には、毎年決算書を作成し、法人税や消費税の申告を行う必要があり、これらを税理士に依頼する場合、顧問料が発生します。

また、法人は毎年法人住民税を納める義務があり、たとえ赤字でも納税義務があるため、一定の維持費用がかかります。

個人事業主として事業を運営している場合、法人化を検討すべきタイミングがいくつかあります。以下のポイントに基づいて、法人化が適しているかどうかを判断することが重要です。

1. 事業の収益が増加したとき

個人事業主として運営している場合、所得税が累進課税であるため、収益が増加すると税率も高くなります。一般的には、年収が500万円から800万円を超えるタイミングで法人化を検討することが推奨されます。この範囲を超えると、法人税率の方が有利になるため、法人化による節税効果が期待できます。

2. 取引先から法人化を求められたとき

取引先が法人との取引を求めている場合、あるいは法人化していないと取引ができないという条件が提示されることがあります。特に、大手企業や金融機関との取引では、法人化が必須とされることが多いため、信用力向上や取引機会の拡大を目的に法人化を検討するべきです。

3. 事業を拡大し、従業員を雇用する段階に来たとき

事業が拡大し、従業員を雇用する段階になった場合、法人化することで従業員の福利厚生を充実させ、安定した労働環境を提供することが可能になります。また、法人化することで社会保険への加入が義務付けられるため、従業員の労働条件が向上し、優秀な人材を確保しやすくなります。

個人事業主としての運営は、簡単に始められるという点で大きな魅力がありますが、事業が成長し、利益が増えるにつれて法人化の方が有利になる場合が多いです。特に、税制上のメリットやリスク分散、信用力の向上といった法人化の利点を考慮しながら、事業の規模や将来的な展望に応じて最適な形態を選ぶことが重要です。

一方で、法人化には設立費用や運営コストがかかり、社会保険料の負担も増加します。事業の状況に応じて、法人化が適しているかどうかを見極めることが成功への鍵となります。

事業の規模や収益が拡大した際には、法人化を真剣に検討し、最適なタイミングで法人化を進めることが、長期的な事業の成長と安定に繋がるでしょう。

ぜひ、経営サポートプラスアルファにご相談ください。

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