個人でビジネスをするにあたって検討しなければならないのは法人化のタイミングです。
ある程度売上が増えた場合は法人化を検討した方がよく、逆に法人化しなければ損をしてしまうこともあるぐらいです。
皆さんの中にも法人化を考えている人はいると思いますが「法人化すべき売上の目安がわからない」という方も多いでしょう。
今回は個人から法人化を考えるにあたって、どの程度の売り上げを目安にすればよいのかご説明します。
法人化の目安となる2つの観点
個人から法人化を考えるにあたって目安にする観点は「売上金額」と「利益額」の2つがあります。
それぞれどのような観点であるのかご説明します。
売上金額1,000万円
売上金額1,000万円程度が法人化を検討する目安です。
売上1,000万円と言えば世の中的には大台と言われる額であるため、ひとつの目安として捉えましょう。
単純に「大台だから」という理由で目安になっているのではなく、売上1,000万円は消費税を納める義務が生じるかどうかの判断基準であるからです。
消費税は基本的に納めなければなりませんが、売上が1,000万円未満の場合は納税が免除されています。納税義務が生じるタイミングが法人化の目安となっているのです。
消費税を納める義務が生じたタイミングで法人化すると、納税の義務は法人に引き継がれません。
個人から法人化してもそれぞれは別の人格であるため、消費税を納める義務も別物だと考えられるのです。
状況にはよるものの法人化すれば約2年間は消費税を納める義務が生じないため、法人化することによって税金面のメリットを受けられます。
利益額が500万円
売上金額ではなく年間利益額で評価すると500万円程度が法人化の目安です。
年間利益額は大雑把に計算すると年間の売り上げから年間の経費を差し引いた金額です。
厳密には課税所得を意識する必要がありますが、今回は利益額に注目するようにします。
個人でビジネスを営み利益が増えてくると、累進課税の影響で所得税の金額が加速度的に増えてしまいます。
利益額が500万円程度で所得税の金額が高額になってくるため、この程度の利益に対応する売上が法人化の目安なのです。
なお、法人化をおすすめする理由は、法人化することによって税率が下がる可能性があるからです。
個人と法人では税金の仕組みが異なるため、この程度の利益で法人化すると税率の違いから納める税金が下がる可能性があります。
必ずしも税金が下がるとは言い切れませんが、税金が下がる可能性のある利益額が法人化の目安なのです。
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売上が目安を超えて法人化する4つのメリット
売上が目安を超えて法人化すると以下のようなメリットを感じられます。
- 社会的な信用力が高まる
- 経費の範囲が広がる
- 納税額が下がる可能性がある
- 赤字を9年間繰り越せる
法人化のメリット1:社会的な信用力が高まる
一般的には個人よりも法人の方が社会的な信用力が高いと考えられています。
売上が増えることによって法人化すれば、社会的な信用力が高まり、より売上の増加につなげられるかもしれません。
社会的な信用力が高まることを踏まえると、上記でご説明した目安に少々届いていなくても法人化を検討しても良いでしょう。
法人化によって社会的な信用力が高まる理由はいくつも考えられます。
ただ、明確な理由が存在しているわけではなく、世の中的に「個人よりも法人の方が信用できる」とのイメージが広がっている状況です。
これは法人登記に複雑な手続きなどが必要となるため、手続きしている分だけ信頼できるなどの理由が考えられます。
社会的な信用力が高まることは様々な効果を生み出します。
取引先からの信用力を獲得できる以外にも、求人への応募が増えやすいなどのメリットがあるのです。二次的な効果が期待できるため、売上が目安を超えれば法人化を検討してよいでしょう。
法人化のメリット2:経費の範囲が広がる
個人から法人化することによって認められる経費の範囲が広がります。
個人でビジネスをしている場合は「ビジネスに直接関連する支払い」のみが経費として認められますが、法人でビジネスをしている場合は「会社の運営に関連する支払い」が経費として認められます。
例えば個人でビジネスをしていると、クライアントを探すための交流会の参加費用は経費として認められない可能性があります。
この段階ではまだビジネスが成立していないため、ビジネスに関わる費用とは判断されないのです。
それに対して、法人にビジネスをしていると同様の支払いは経費として認められる可能性が高まります。
法人としてクライアントを探すために参加していると判断できるため、必要経費に該当するのです。
ここでご紹介したのは一例ではありますが、法人化すれば経費として認められる範囲が広がります。
経費として認められるものが増えれば課税対象が下がるため、税金が下がることにもつながるのです。
特に法人化の目安を超えるほどの売り上げがあれば、課税対象は高額になっていると考えられるため、経費の範囲が広がることは大きなメリットとなります。
法人化のメリット3:納税額が下がる可能性がある
法人化すると個人と税金の仕組みが変化して納税額が下がる可能性があります。
個人の場合は所得税と住民税を納めますが、法人の場合は法人税と法人住民税を納めるのです。
これらは算出方法に違いがあるため、その違いから納税額が下がる可能性があります。
まず、個人でビジネスをしている場合は所得税を納める必要があり、所得税には累進課税制度が採用されています。
累進課税制度は所得が増えれば増えるほど税率が高まる仕組みで、売上が増えて所得が増えればそれだけ多くの税金を納めなければなりません。
これは上記でも説明したとおりです。
しかし、法人でビジネスをすると法人税となり、法人税は累進課税ではなく基本的に利率が一定です。
そのため、売上が増えて所得が増えても税率が高まらず納税額が加速度的に増えることもありません。結果、個人の所得税よりも法人税のほうが税率が低くなり、納税額が下がる可能性があるのです。
ただ、住民税については異なり、法人住民税は赤字であろうとも必ず納めなければなりません。
個人の住民税は赤字ならば納める必要がないため、この点は法人のデメリットです。法人税と法人住民税の両面から納税額は評価しなければなりません。
法人化のメリット4:赤字を9年間繰り越せる
法人化することによって赤字を9年間繰り越せるようになります。
個人事業主で青色申告をしている場合、赤字は3年間繰越できますが、法人化することによって繰越期間が大きく伸ばせるのです。
赤字の繰越ができれば赤字に陥った際に節税できる可能性があるため、繰越期間の長さは重要なポイントといえます。
皆さんの中には「法人化を検討するほど売り上げがあるならば赤字は気にしなくて良いのではないか」と考える人がいるかもしれません。
しかし、法人化したタイミングでは赤字ではなくても、法人を運営していくと赤字に陥る可能性があります。
例えば、思い切って設備投資をするといきなり赤字になってしまう可能性があるのです。
これから先、設備投資などで中長期的な赤字が予想されるならば、法人化のメリットを受けやすいかもしれません。
売上が増えて投資できるタイミングだからこそ法人化した方が良いケースもあります。
売上金額が目安を超えた場合の法人化手続き
売上金額が上記でご説明した目安を超えた場合、思い切って法人化した方が良いかもしれません。
法人化する場合は以下のような手続きが必要です。
- 必要事項の決定
- 印鑑の準備
- 定款の作成と認証
- 資本金の払込み
- 登記資料の作成
- 登記手続き
目安を超えた際の手続き1:必要事項の決定
法人化するにあたっては様々な事項を決定しておかなければなりません。
売上が目安に達したからとすぐに法人化するのは難しいのです。
目安に達して法人化することを考えているならば、まずは以下の時間を検討するようにしておきましょう。
- 商号(会社名)
- 本店所在地
- 資本金
- 会社の目的
- 事業内容
- 設立日
- 会計年度
- 株主の構成(比率)
- 役員
法人化にあたって株式会社を設立するか合同会社を設立するかによって検討する事項は少々異なります。
大まかに上記のような内容を決定しておくと法人化が進みやすいと考えておけば良いでしょう。
検討事項については目安だと捉えてください。
また、検討事項はすべてを事前に決定する必要はなく、法人化の手続きを進めながら検討できる事項もあります。
全ての事項を決定してから法人化の手続きを進めると時間を要してしまう可能性があるため、並行して対応できることは進めていくことが重要です。
目安を超えた際の手続き2:印鑑の準備
法人を設立する際には法人用の印鑑を準備しておかなければなりません。
個人で利用する印鑑ではなく、法人で利用する専用の印鑑を作成すべきです。
法人化の手続きで印鑑を登録しなければならないため、このタイミングまでに印鑑を準備しておきましょう。
なお、法人化のタイミングで必要な印鑑は「法人実印」と呼ばれるもので、最低限この印鑑だけを作成しておけば法人化は可能です。
ただ、法人化してビジネスを営んでいくと「銀行印」「角印」なども必要となります。
そのため、法人実印を作成する際にはこれらの印鑑もまとめて作成しておくと手間が省けます。
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目安を超えた際の手続き3:定款の作成と認証
必要事項の検討と印鑑の準備が完了すれば、定款と呼ばれる書類を作成しなければなりません。
定款は会社の憲法とも呼ばれるほど重要な書類であり、法人化にあたっては必須です。
定款の作成方法は法律で定められていて、必ず記載が必要な「絶対的記載事項」と呼ばれる事項があります。
これらが含まれていなければ定款としての意味をなさないため、以下に示す項目を必ず含めるようにしましょう。
- 事業目的
- 商号
- 本店所在地
- 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
- 発起人の氏名又は名称及び住所
- 発行可能株式総数
最低限これらの項目が含まれている必要があるため、これらの項目については必ず検討するようにしましょう。
法人化を検討するにあたって基本情報として決定しているものもあると思いますが、検討できていない部分があるならば定款を作成する際に決定できればなりません。
また、法人の内容によってはこれらの項目だけでは定款の内容が不足してしまうかもしれません。
そのため、絶対的記載事項以外にも、必要な事項を自分たちで付け加えて差し支えありません。
例えば、法人化にあたって英語の名称を明示しておきたいならば、定款に記載しておくことで正式名称として扱われます。
なお、法人化にあたって株式会社を選択するならば、作成した定款を公証人役場で認証してもらわなければなりません。
公証人役場に定款を提出して第三者に内容を認めてもらう作業が必要なのです。
公証人役場で定款認証してもらうためには時間と手数料が必要になるため、売上の目安に達して株式会社の設立を検討する際は必ず意識しておきましょう。
目安を超えた際の手続き4:資本金の払込み
法人は定款に資本金が定められているため、この金額を払込みする作業が必要です。
手元に現金があるだけでは資本金として認められず、払込み作業をすることによって認められるようになります。
資本金の払込みでは発起人が保有する銀行口座を利用します。
個人から法人化する場合は基本的に発起人は個人であると考えられるため、個人の銀行口座を利用すると考えておきましょう。
よくある勘違いとして「法人口座を利用するのではないか」というものがありますが、この段階では法人口座の開設はできません。
個人から法人化する場合は個人名義の銀行口座を利用するのが基本です。
なお、個人事業主から法人化する際に注意してもらいたいのは、個人事業主の屋号名義で開設している口座は利用できない可能性があります。
法人化する場合は屋号名義の銀行口座ではなく個人名義の銀行口座を利用するようにしましょう。
また、資本金の払込みに関する注意点として、銀行口座に改めて入金しなければならないことが挙げられます。
資本金は銀行口座にお金があれば良いのではなく、銀行口座に入金することが重要です。
つまり、資本金が100万円で銀行口座の残高が200万円でも、それだけでは資本金として認められません。
100万円を出金し、改めて100万円を入金する作業が必要となります。
目安を超えた際の手続き5:登記資料の作成
法人化するにあたっては専用の資料を作成しなければなりません。
法務局が様々な文章のフォーマットを公開しているため、それらを利用して法人登記に必要な資料を作成していきましょう。
また、自分で作成する資料だけではなく、役所に行って発行してもらう資料なども存在します。
どのような資料が必要になるかは、法人化にあたって株式会社を選択するか合同会社を選択するかによって左右されます。
状況によって変化するものの目安としては合計で10種類程度の書類作成が必要です。
例えば以下のような書類が該当します。
◆株式会社
- 定款
- 株主全員の印鑑証明書
- 株式会社設立登記申請書
- 代表取締役(取締役)の就任承諾書
- 発起人決定書
- 払込証明書
- 印鑑届書
- 代表取締役(取締役)の印鑑証明
◆合同会社
- 定款
- 合同会社設立登記申請書
- 代表社員の印鑑証明書
- 資本金の額の計上に関する証明書
- 印鑑届書
- 登記用紙と同一の用紙
具体的にどのような書類が必要となるかは状況によって異なるため、法務局の公式サイトで確認するようにしましょう。
具体的なフォーマットとサンプルが掲載されているため、法務局で紹介されている内容を確認すれば、法人化に向けてどのような手続きをすれば良いのか一目瞭然です。
目安を超えた際の手続き6:登記手続き
必要な書類作成まで完了すれば法務局に出向いて書類の提出をします。
必要な書類が揃っているかどうかをチェックされて、書類の数などに問題がなければ受理してもらえます。
書類の提出が完了すれば法人化はほぼ完了したようなものです。
書類を受理してもらった後は法務局によって書類内容の審査が実施されます。
特に問題がなければ2週間程度で法人化の手続きが完了するため、書類を提出してからは待機しておきましょう。
何かしらの問題があると法務局から連絡が来るため、もし連絡が来た場合は速やかに対応しなければなりません。
まとめ
法人化を検討する売上の目安についてご説明しました。
いくつかの観点がありますが、売り上げが1,000万円を超えるか利益が500万円を超えたタイミングが法人化の目安です。
状況によっては売上が目安に達していなくても法人化した方が良いこともあるため、タイミングについては臨機応変に考えるようにしましょう。
個人と法人には多くの違いがあり、法人化することで多くのメリットを受けられます。
法人化するための手続きは複雑であり手間がかかってしまいますが、それ以上のメリットを感じられると考えてよいでしょう。
状況によってメリットの感じ方も変化するため、目安に達していなくとも自分の状況にあてはめて検討することが重要です。
なお、法人化の手続きが複雑であるため自分では対応が難しいかもしれません。
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