飲食店は開業と廃業のサイクルが短い業種であり、多くのお店が新規開業する一方、廃業も多く、一朝一夕ではうまくいかない仕事であります。
1年前にあったはずのラーメン屋が別のラーメン屋になっていたということはざらにあり、ライバルが多く、競争が激しい業界の現実がそこにはあります。
今回、飲食店を開業するにはどのようにすればいいのか、資格関係を中心に解説します。
簡単な世界ではありませんが、開業へのハードルが低いのでチャレンジしてみる価値はありそうです。
ぜひ参考になさってください。
飲食店開業に必要な資格は何?
まず、飲食店を開業するにあたってどのような資格がいるのか解説します。
他の業種と異なるのは、食中毒等の健康リスクがあり、火を使い(火事のリスクあり)、水を使う(漏水、感染症)いう特徴があります。
これらのリスクに対して適切に対処できる資格が開業にあたり必要になります。
「調理師」資格は必須ではない!
よく勘違いされますが、飲食店の開業にあたって「調理師」資格は必須ではありません。
持っているに越したことはありませんが、あくまで「努力目標」です。
もちろん、調理師は調理師法に定められた国家資格ですので、その試験に合格した人のみが『調理師』と名乗ることができます。
「フード〇〇」みたいな名称は自称、ないし民間資格なので異なります。
調理師資格を持っていなくても、おいしく安全安心な料理を提供できれば、飲食店開業はうまくいきます。
必須の資格は「食品衛生責任者」と「防火管理者」
調理師資格は不要ですが、飲食店開業にあたり必須の資格が2つあります。
これがないと飲食店開業できず、持っていない場合取り締まりの対象になってしまいます。
食品衛生責任者
飲食店、喫茶店などの調理営業や食品の販売業等に必要な資格で、店舗、施設等の衛生等を行うことを目的としています。
飲食を提供するお店であれば、たとえ喫茶店でもテイクアウト専門でも(つまり路上のたこ焼き屋やクレープ屋も)、この資格が必要になります。
食べ物を取り扱うために最低限必要な知識を身につけるための資格です。
各都道府県が実施している講習を1日受講すれば食品衛生責任者の資格を取得できます。
また、下記の資格を持っている人は、食品衛生責任者の講習を受講しなくても、食品衛生責任者の申請ができます(申請すれば食品衛生責任者になれます)。
<食品衛生責任者の講習受講が免除される資格> ◆医師、歯科医師、薬剤師、獣医師 ◆大学等で医学、歯学、薬学、獣医学、畜産学、水産学又は農芸化学の課程を修めて卒業した人 ◆栄養士 ◆調理師 ◆船舶料理士 ◆製菓衛生師 ◆食鳥処理衛生管理者 ◆食品衛生管理者 ◆ふぐ調理師 ◆食品衛生指導員もしくはその経験者 ◆食品衛生監視員 |
調理師を持っていると、この食品衛生責任者の講習を受けなくてもいいというメリットがあるのです。
防火管理者
飲食店は火を使うため、火事のリスクと隣り合わせです。そのため、一定規模の飲食店については、消防協会が実施する防火管理者講習(1日~2日間)の受講が必須となります。
防火管理者を設置するのは必要なのは「収容人数が30人以上の飲食店」を開業する場合です。
カウンターだけ、あるいは、4人掛けテーブル4卓+カウンターなどの飲食店は不要です。
もちろん、火事になった場合、速やかに避難できるようなシミュレーションは必要になります。
防火管理者は、甲種、乙種があり、それぞれ店内の広さに応じます。
店の収容人員 | 防火管理者 | 店の広さ | 防火管理者種類 | 講習日数 |
---|---|---|---|---|
30名未満 | 不要 | – | – | – |
30名以上 | 必要 | 延べ300㎡以上 | 甲種 | 2日間 |
必要 | 延べ300㎡未満 | 乙種 | 1日間 |
防火管理者甲種は乙種を兼ねるので、延べ面積300㎡未満のお店の場合、防火管理者甲種を取得しても構いません。講習は甲種講習会の方が多く、乙種の講習会が少ないのが実情です。
なお、防火管理者甲種と一緒に「防災管理者」(より大きな商業施設の防火管理)講習が同時に開催されることもありますが、これを受講していただいても構いません。
- 防災管理者>防火管理者甲種>防火管理者乙種
という関係になります。
そのほか取得しておいたほうがいい資格
飲食店開業に必要な資格は「食品衛生責任者」と(店の定員30名以上の場合)「防火管理者」ですが他にも取得しておきたい資格があります。
調理師
繰り返しになりますが、調理師は飲食店を開業するうえでは、とてもアピール材料になります。
1日の講習で取得できる食品衛生責任者とは違い、調理師は
- 厚生労働大臣指定の調理師学校修了
- 2年以上の実務経験と調理師試験の受験
のいずれかを満たす必要があります。
いきなり飲食店を開業する場合、すぐに調理師資格は取得できないことに注意してください。
食品の衛生管理、料理の技術など大きな担保になります。
お酒に関する資格
お酒に関する民間資格があります。小料理屋やBARなどを開業する場合、お客様との会話などに役立ち、お店のPRにもなります。
具体的な資格としては
- JSAソムリエ(一般的にイメージするソムリエ。3年以上の実務経験が必要)
- ANSAソムリエ(別団体のソムリエ。こちらは誰でも取得可能)
- 日本ビール検定
- ビアアドバイザー
- ビアテイスター
- きき酒師
- 日本酒検定
- 焼酎きき酒師
- カクテル検定
などがあります。
食べ物に関する資格
食べ物についてもさまざまな資格があります。
調理師ほどの訴求力はありませんが、お店のコンセプトと組み合わせると面白いはずです。
- フードコーディネーター
- ベジタブル&フルーツマイスター(野菜ソムリエ)
- 和食マイスター
飲食店開業までの流れ
飲食店開業までにはさまざまなステップがあります。
許認可申請や行政手続きもあるので、難しい方は専門家に手続き代行を依頼するのも1つの方法です。
飲食店開業までの流れを見ていきましょう。
期日 | 届出先 | 届出 | 対象 |
---|---|---|---|
営業開始2か月前 | 警察署 | 風俗営業許可申請 | 「接待」をともなう飲食店(キャバクラ、スナックなど) |
店舗完成の10日前 | 保健所 | 食品営業許可申請 | 全飲食店 |
設備設置前 | 消防署 | 火を使用する設備等の設置届 | 火を使うお店 |
開業10日前 | 警察署 | 深夜酒類提供飲食店営業開始届出書 | 深夜12時以降もお酒を提供するお店 |
開業7日前 | 消防署 | 防火対象設備使用開始届 | 建物や建物の一部を新たに使う場合 |
開業前 | 消防署 | 防火管理者選任届 | 収容人数30名以上のお店 |
法務局 | 会社設立登記申請 | 会社設立、法人の場合 | |
開業後1か月以内 | 税務署 | 個人事業の開廃業等届出書 | 個人事業主の場合 |
雇用翌日から10日以内 | ハローワーク | 雇用保険の加入手続き | 従業員を雇う場合 |
できるだけ早く | 社会保険事務所 | 社会保険の加入手続き | 法人は強制加入 |
これだけの手続きをしなければ飲食店の開業ができません。
通常の業種は、個人事業主の場合、開業届を税務署に出すだけでOK(白色申告で行うならそれすらいらない可能性も)なのと比較し、雲泥の差です。
飲食店の開業はさまざまな行政機関への申請、届出が必要であり、開業に詳しい司法書士や行政書士などに相談した方がいいでしょう。
飲食店を開業する際、会社設立か個人事業主か?
飲食店を開業する場合、上記の設立までの手続きでもわかるように、会社設立と個人事業主という選択肢があります。
街の飲食店などは多くは個人事業主としてやっています。
大きなお店や老舗料理店の中には、会社設立しているところもあります。
一般的に会社設立、個人事業主それぞれのメリットとデメリットは以下になります。
会社設立 | 個人事業主 |
---|---|
メリット | |
社会的信用がある | 簡単に開業できる |
経費の範囲が広い | 定款などの作成義務がない |
責任の範囲が有限 | 自由な働き方ができる |
赤字繰り越しが10年である | 廃業手続きもすぐにできる |
利益次第で個人事業主よりも税率が下がる可能性 | 社会保険に加入できないため、国民健康保険と国民年金だけえでは老後が不安 |
最高税率が23.2%と所得税の約半分 | |
デメリット | |
設立までの手間がかかる | 社会的信用がない |
設立後の帳票作成や税務申告が大変 | 最大税率45%と法人税よりはるかに高い |
赤字でも法人住民税(均等割)がかかる | 無限責任で経営失敗のマイナスはすべて自分が負う |
社会保険へ加入しなければならない | 赤字繰り越しが3年までしかできない |
会社の廃業手続きが煩雑 | 経費で落とせる範囲が狭い |
本当に味だけを追求するなら、個人事業主でも全く問題ありません。
ただし、個人事業主として年間売上が1000万円を超えるくらいから、税金面で個人事業主よりも会社を設立した方が特になります。
個人事業主が納付する「所得税」と会社(法人)が納付する「法人税」では、年間売上1000万円くらい(若干前後します)で「所得税<法人税」から「所得税>法人税」になります。
年間売上2000万円ならばほぼ確実に会社を設立した方が、税金が少なくなり節税につながります。
逆に、自分1人で年間売上数百万円の飲食店でよいならば、あえて会社を設立するメリットは小さいです。
事業主体 | 会社設立 | 個人事業主 |
---|---|---|
所得税 | 代表個人の役員報酬を「給与所得」として算出し、その5%~45% | 事業の売上から「事業所得」を算出してその5%~45% |
個人住民税 | 代表個人の役員報酬を「給与所得」として算出し、その約10% | 事業の売上から「事業所得」を算出してその約10% |
消費税 | 課税売上1000万円以上の場合支払う(2年間は支払い義務がない特例もあり) | 課税売上1000万円以上の場合支払う |
法人税 | かかる(15%~23.2%) | なし |
法人住民税 | かかる | なし |
法人事業税 | かかる | なし |
個人事業税 | なし | かかる |
会社設立した場合、税務や会計も複雑になります。
現金商売の飲食店の場合、とても煩雑になる可能性があります。
専門家の意見も聞きながら、会社設立か個人事業主、どちらで開業するか決めるとよいでしょう。
<あわせて読みたい>
飲食店開業にあたり資金は必要か?
飲食店開業に際して、開業資金は必要になります。
飲食店の場合、いわゆる「自宅レストラン」を開業する場合も、家庭用キッチンと業務用キッチンは条件が異なります。
そのまま自宅のキッチンを業務用キッチンに転用することは難しく、大改装が必要になります。
というわけで、実際には新規開業の場合、自宅開業よりも外部物件を借りるのが現実的になります。
外部物件を借りる場合、キッチンの搬入や保健所の基準を満たすような改装が必要になり、小規模な飲食店でも1000万円ほどの開業資金が必要になります。
さすがにそれでは開業できない・・・、という方は、同じような飲食店が入っていた物件を「居抜き」で引き継ぐ方法もあります。
居抜きならば、小規模な改装で間に合います。ラ
ーメン屋が入っていた物件ならばラーメン屋の開業資金は抑えることができますが、その物件で焼き肉屋を始めようとすれば、キッチンやテーブルはほぼ新しくしなければなりません。
不動産屋を丁寧に回り、やりたい飲食店を伝え、居抜きで入れるところがないか探すのも、開業費用を抑える方法になります。
開業資金が足りない場合、事業計画書を作成し、日本政策金融公庫や信用保証協会、自治体、民間金融機関等の「創業融資」を受けることになります。
飲食店は廃業も多く、よほどしっかりした事業計画を立てないと、厳しい審査になります。
審査をする人に料理を食べてもらうわけにもいかず、他店と比べて優位性があることを事業計画で示す必要があります。
そのため、開業に詳しい専門家、コンサルタントとしっかり打ち合わせ、アドバイスを受けることが大切です。
「経営サポートプラスアルファ」では、開業資金調達以外にも、会社設立や開業後の経理、税務、飲食店開業の際に必要な各種申請、届出についても総合的に相談できます。
飲食店開業や開業に必要な資格についての相談は「経営サポートプラスアルファ」にお任せ
飲食店は流行り廃れの波が大きく、開業事業者が多い一方、廃業も後を絶たず、開業前に綿密な計画を立てる必要があります。
飲食店開業に必要な資格は「食品衛生責任者」と「防火管理者」(収容人員30名以上のお店)ですが、それ以外にも「調理師」をはじめ取得しておきたい資格もあります。
開業についての手続きは複雑で、複数の行政機関への申請が必要となります。
自分だけで行うと瑕疵がある可能性があり、必要に応じて専門家の手続き代行も利用してください。
資金調達、物件選び、飲食業許可、開業後の会計、税務申告、会社設立か個人事業主かのアドバイス、すべて同じ専門家にできればすごくいいですよね。
「経営サポートプラスアルファ」にはそうした専門家がいて、みなさまの飲食店開業を徹底的にサポートいたします。
「経営サポートプラスアルファ」では土日祝日夜間も対応します。
また、遠隔地にお住まいの方は、LINEやZOOM、チャットワークをご利用いただけます。
ぜひお一人で悩まずに、一番いい形で飲食店開業を実現させましょう。
「経営サポートプラスアルファ」はみなさまを応援します。